夢?
ばたり、と洋子は両手を下ろし、首を振った。
きらりと目が光ると、市川を睨む。
「な、何だよ……?」
市川は吃驚して顔を挙げ、心持ち後ろに下がった。
ずい! と洋子は一歩前に進むと、まじまじと市川の顔を睨みつけた。
「この格好、あんたが悪戯で設定したあたしよね? あんたも、山田さんもあの悪戯書きそのままなのは、全責任があんたにあるんじゃないの?」
「よ、よせよ……」
じりじりと洋子に迫られ、市川はいつしか建物の壁に背中を押し付けていた。
「どうして、あたしたち、アニメの絵になっているの? 答えなさいっ!」
「し、知らねえっ! 本当だっ!」
「洋子ちゃん。もう、その辺にしとけ」
見かねて、山田が洋子の肩を掴んだ。洋子はさっと手を上げて山田の腕を振り払う。
「あんたたち、さっきからここが『蒸汽帝国』の世界だって何遍も言ってたじゃないの。どうしてそんな気違いじみた話、信じられるの?」
山田が「やれやれ」とばかりに首を振った。
「そりゃ、辺りの景色を見れば即座に判るさ。建物の形や、様子は、おれが美術設定した『蒸汽帝国』そのものだしな。なあ、市川君?」
市川は急いで同意した。
「そうだ。今までチラリとしか見ていないが、店に踏み込んできた警官隊の服装も、おれが設定したデザインそのままだ。何から何まで木戸さんの『蒸汽帝国』なんだよ!」
洋子はヒステリーを起こしたように金切り声を上げる。
「だから、何でそんな阿呆らしい事態になっているの? これは夢? 夢ならいつ覚めるの?」