視力
遠くから「がちゃん、どしん!」という機械の音が聞こえてくる。
合間に「しゅーっ! しゅーっ!」という蒸汽が噴き上がる音が挟み込まれ、まるで工場の中にいるような騒音が周りに満ちていた。
空を振り仰ぐと、満天の星空に、空を突き刺すように何本もの煙突が立ち並び、一斉に白い煙を吐き上げている。
明らかに夜なのに関わらず、市川の目に周囲の情景は、はっきりと見てとれた。全体に青みがかかり、遠くの建物には一面に燈火が点っている。
アニメの夜の場面で、本当に何も見えない真っ暗な場面は、ほとんど存在しない。アニメの嘘で、ある程度まで周囲の景色は判るよう、色指定されるのが通常だ。
また馬鹿な考えだ……。と、市川は自分の顔を、ぶるぶると手の平で拭った。いい加減、こんな埒もない思考は止めなければならない!
市川は拭った自分の手の平をまじまじと見つめた。驚きが胸に込み上げる。
自分は、眼鏡を架けていない!
視力は〇・1を切っていて、眼鏡がないと何も見えないのに等しいのだが、今の市川は眼鏡なしでも、はっきりと辺りの景色を見てとれた。
アニメの世界に入り込んで、得もあるんだ……!