警官
市川の叫びに、山田は、きっとなって睨んだ。
「何だって? 市川君。正気か?」
市川は声を限りに喚いていた。正気を疑っているのは、自分でも同じだ。こんな馬鹿げた話、自分でも信じられない。
「他に考えられるか? おれ、少ししか原作を読み込んでいないけど、冒頭のシーンそのままの展開だと思わないか?」
山田は唇を噛みしめ、大きく頷いた。
「そうだ。おれも読んでいる。何しろ自分が美術を担当する漫画の原作だからな」
洋子が割り込んだ。
「ちょっと、もし原作そのままなら、これから大変な状況になるんじゃない?」
市川と山田は顔を見合わせる。すぐ「ああっ!」と叫びあった。
「そうだ、原作通りなら、この後……」
ぴりりりりり……!
甲高い笛の音が、辺りを支配する。すぐに命令に慣れた、横柄な喚き声が聞こえてきた。
「乱闘が起きているというのは、この店か? よし、踏み込めえ──っ!」
どかどかと重々しい靴音が聞こえてきて、見るからに警官といった扮装の集団が、店内に雪崩れ込んできた。
全員、警棒と盾を手にしている。次々と乱闘を続ける客たちの手足を押さえつけ、手錠をガチャリ、ガチャリと嵌めていく。
「おい、逃げ出そう!」
市川は素早く山田と洋子に囁いた。二人は、すぐさま「うん」と頷いた。