省略
もくもくと煙が三枚の繰り返しで作画され、時々乱闘を続けている客たちの手足や、顔の一部が見えている。
本当に数十人の乱闘を動画で表現するのは至難の業で、「何か大騒ぎが起きているんだぞ」と、視聴者にメッセージを伝える目的の表現だ。動画枚数も節約できるし、テレビ・シリーズでは、よく見かけられる画面である。
山田と市川は、その煙に飛び込み、洋子と思しき女剣士を探した。飛び込むと、すぐに洋子が見つかった。
これも、アニメの省略だ。
「おい、洋子ちゃん!」
ぐい、と女剣士の腕を引っ張り、山田が声を掛ける。
呼びかけられ、女剣士の表情が驚愕に歪んだ。
「あ、あたし?」
市川は、止めを刺した。
「宮元洋子。君の名前だろ?」
洋子は「はっ!」と自分の頬を両手で押さえた。目を丸くして市川と山田の顔を凝視する。
「あんた……市川君、それに、山田さんよね?」
「そうだ! 思い出したかっ?」
山田が大声で叫び返した。
「ど、どうなってんのよ……変な〝声〟が聞こえたかと思ったら、後は何も判らなくなって……。ここ、どこよ?」
市川は周りの騒音に負けじと大声を張り上げた。
「『蒸汽帝国』の、最初のシーンで出てくる酒場だ! 原作そのままだ!」




