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大騒ぎ
顔を上げた瞬間、女の回し蹴りが腹に入ってきた。猛烈な痛撃が突き上げ、市川は一瞬空中に浮かんで、そのまま背後に倒れこむ。
「ぐぎゃっ!」
悲鳴に目をやると、背中側に客の一人が押し潰され、じたばた藻がいている。振り回した拳が、偶然、隣で呑んでいた男の顎に命中した。
「何しやがるっ!」
大声を上げるや、殴られた男は顔を真っ赤に染めて立ち上がり、仕返しに殴りかかってきた。
市川は、ぶーん、と振り回した拳を、ひょいと頭を下げてよけた。男の拳は明後日を向いて、別の客に命中する。
後はもう、大混乱である。
次々と連鎖反応のように店内は殴り合いの饗宴で、椅子が飛ぶわ、テーブルが引っくり返るわ、瓶や食器が割れるわの大騒ぎ。
市川は這いつくばった姿勢で、伸びている山田に近づいた。
「山田さん、おい、しっかりしろ!」
ぺたぺたと頬を叩く。山田は「ぷう!」と息を吹き返し、両目をパッチリと開いて、キョトキョトと辺りを見回した。
「なんてこった……」
呆然と呟き、上体を起こした。