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女剣士
「おれにも見せてくれ!」
山田は市川の手から鏡を引っ手繰る。まじまじと鏡を覗き込み、見る見る不機嫌な表情になった。
「ひでえ爺いだ! おれ、そんな爺さんに見えるかい?」
山田には悪いが、市川は「くつくつ」とくぐもった笑いを堪えるのに必死だった。
だって、山田は五十に近い年齢のはずだ! 市川にとっては、爺さんに見えても仕方ない。
気分を害したらしき山田は、市川の顔を睨んで何か言いかけた。
その時、店内に女の甲高い声が高々と劈いた。
「何すんのよっ! あんた、馬鹿じゃない?」
「あんたこそっ! その手をどけなさいっ!」
二人はギクリと、声の方向に視線をやる。
店の、出入口付近のテーブルで、二人の女が怖ろしい剣幕で睨み合っている。
二人とも、布地を極端に節約した衣装を身に纏い、腰には大振りの剣を提げていた。見るからに旅の女剣士の装いだ。
二人は顔を真っ赤にさせ、親の仇と言わんばかりの表情を浮かべている。
市川は二人の姿に見覚えがあった。特に、一方の女剣士には……。
「ありゃ、洋子ちゃんじゃないか?」
山田が市川の疑問を先回りして叫んだ。