スケジュール表
入ってすぐのところにパーティションがあって、そこには【タップ】が過去に制作したアニメ番組の宣材ポスターが何枚も貼られている。
とはいえ、【タップ】がメインで制作した訳ではない。
ほとんどが下請けで制作したものばかりだ。
制作室に入ると、目の前にスケジュール表を書いたホワイト・ボードが壁に架かっている。ボードにはマジックで「打ち合わせ」「作画イン」「回収」「スキャニング」「編集」などの文字が様々な色で書かれ、その間には矢印が何本も引かれている。
アニメの制作がデジタルに移行して、それまでのフィルム撮影は完全に姿を消した。以前のスケジュール表には、「撮影」「現像」などの文字があったが、今は「スキャニング」が替わりに記されるようになった。
市川は眉を顰めた。
「誰もいねえのか……?」
独り言を呟くと、ぺたぺたとスリッパの音を響かせ、ずらりと並んだ制作デスクの間を歩いていった。
デスクにはそれぞれ、パソコンが用意されている。
アニメにコンピューターが導入されて長い。制作室の片隅には、大き目のサーバーが、でん、と設え、微かなアクセスの音を響かせていた。パソコンの画面には【タップ】のシンボル・キャラクターのスクリーン・セーバーが、ゆっくりと画面をランダムに動いていた。
と、市川の足が止まる。
灰色のデスクの向こう側から、両足が突き出している。両足の持ち主は、スチール椅子を何脚も並べたその上に、ひょろ長い身体を横たえていた。