鏡!
「とにかく、やたら妙な事態が起きているのは確かだ。おれたち、本当にアニメの世界にいるのか? こりゃ、夢じゃないのか?」
市川は山田の忠告に従い、小声で囁いた。
山田は「ふむ」と唇を歪めた。じろじろと店内に目をやる。
「確かに、アニメの世界だな。背景は、おれが描いた酒場の設定そのまんまだし、タッチも、おれが指定しそうなものだ……。おれたちだって、アニメの絵になっている……。君の顔も、あの悪戯書きのキャラクターそっくりだ」
市川は慌てて自分の顔を撫で回した。手で触れた自分の顔は普段のままだが、鏡がないから判らない。
鏡!
市川は自分の物入れを探った。ごちゃごちゃと小物が入れられ、どうやら鏡らしき平たい物体を掴み上げた。
取り上げると、表面がキラリとランプの明かりを受け、輝いた。怖々と自分の顔を映し出す。
「ひえっ!」
そこにあったのは、確かに自分が悪戯書きをしたキャラクターそのままだった。いつも吃驚したように飛び出した両目と、こけた頬。
自分の顔が、こうして描かれているのを目の当たりにして、どうしてもっといい男に描いておかなかったんだろうと、後悔が押し寄せる。