疑問
「冗談じゃねえ! 何が哀しくて、おれたちアニメの世界にいるんだ? おれは、アニメの仕事をしてはいるが、そんな、馬鹿な……」
市川は声を張り上げた。
ぴた、と酒場に満ちていた喧騒がやむ。
静寂に、市川と山田が周りを見回すと、客たちが怪訝そうな表情を浮かべ、二人を穴の空くほど凝視していた。
ひくひくと山田の口端が引き攣った。無理矢理どうにか笑みを浮かべると、大仰な仕草で、ぺたんと自分の額を叩き、ぺこぺこと叩頭を繰り返して言い訳する。
「お客さん! もう酔っ払っちまったんですかあ? 酒も呑みすぎは良くありませんな……」
「なんだ」といった雰囲気が満ちて、客は興味を失ったように視線を外し、各々のテーブルに顔を戻した。がやがやとした喧騒が戻ってくる。
山田は、がっくりと市川の目の前の椅子に座り込んだ。手真似をして、市川にも座るよう促す。
市川は山田の向かい側に座った。山田は半身を乗り出し、囁いた。
「ここではあまり、そんな話はよそうや。何が起きたか、さっぱり判らんが、どうやら、用心したほうがいい」
市川は神妙に頷いた。
が、心臓は早鐘のように打っているのを感じている。
頭の中がぐわんぐわんと脈打ち、疑問が次から次へと湧き上がり、全身から噴き零れそうだった。




