線撮り
線撮りだな。
線撮りは原画そのものを、指定されたタイミング・シートに従い、撮影する方法だ。【白味】や絵コンテ撮りに比べれば、まだしも声優は演技がしやすい。しかし、非常手段である事実には変わりがない。
「おおい! 注文を間違えるな! ビールを十杯! つまみのチキンを五人分だ! 早く持って行け!」
親爺の声は、どこかで聞いた覚えがある。
なんだか聞き慣れた声音だが……。
真っ白な色のない画面に、不意に色が着色された。線がくっきりとして、背景もちゃんと見えてくる。
ほほお、やっと【色】が着いたか……。
【色】が着く、とはアニメのキャラクターにちゃんと色が彩色され、背景も揃った完全な画面になるのを、言う。
アニメの制作進行にとっては、きちんと【色】が着いた状態でアフレコに持っていけるのは、制作がきっちり滞りなく進行した証拠であり、誇りでもある。
がやがやと酒場らしい騒音が耳に届き、鼻腔に料理の旨そうな匂いが飛び込んできた。
料理の匂いだって?
ふと手許を見る。自分の両手だ。
しかし変だ。妙にのっぺりと見え、線が見える。
アニメの画面そのままだ!
おいおい、どうなってるんだ……。