誰?
市川は、ぐっと目を近寄らせ、祠の中を確認する。
幼児のような体型の彫像があった。幼児は裸で、尖がった頭に、吊り上がった両目をしていた。両足が前に投げ出され、足の裏が見えている。
市川は「【タップ】のシンボル・マークそっくりだ」と、戦慄と共に思った。
洋子が歓声を上げた。
「わあ! ビリケンさんや! 懐かしい……。そうか、【タップ】のマークはビリケンさんなんやね……」
市川は洋子の関西弁に、吃驚していた。しかし、洋子がいつか、自分は関西の出身だと話していたのを思い出した。
あれ、いつ洋子は、そんな話をしたっけ?
「ビリケンって……?」
市川の呟きに、山田が応じる。
「大阪の、通天閣が有名だな。幸運の神様として、大阪ではよく知られているよ」
山田の言葉に、新庄は大いに頷く。
「そうさ! 会社を興すとき、守り神も探したんだ。芸能の神様と言えば天宇受売命が有名だが、こっちはテレビ・アニメだからな。もう少し、変わった神様を探していたら、ビリケン様に行き当たったんだ。何しろ祀られているのが、通天閣だ。少しはテレビの世界でも、共通するんじゃないかと思ってな!」
新庄は機嫌よく宣言していた。両手を擦り合わせ、張り切って捲くし立てる。
「さあ、絵コンテが完成しているから、今すぐ打ち合わせだ! スケジュールは押しているぞ! 皆、気張って行こう! そうだ!」
ぴしゃりと額を打つ。
「打ち合わせをするには、人数分の絵コンテをコピーしなきゃ! おい……!」
誰かを呼ぶような顔つきになる。が、口は動くだけで、言葉にならない。
「ありゃ? おれ、誰を呼ぼうとしていたのかな? 担当の制作進行は誰だっけ?」
ぎょろぎょろと大きな目を瞠り、市川たちの顔を眺め渡した。
市川もまた、その場の全員の顔を見やり、奇妙な感覚に捉われていた。
洋子、山田、木戸、新庄。皆、揃っている。足りないのは……ありゃりゃ?
誰だっけ?