〝声〟
──あんたら、困ったことをしてくれたなあ……。えらい迷惑や……。
市川は、初めて恐怖を感じていた。
今の〝声〟は、何だ?
口調は関西弁である。いや、そう聞こえるが、どうにもインチキ臭い、関西弁だ。外国人が、無理矢理関西弁を喋っているような、ぎこちなさを感じる。
──誰だ?
市川は頭の中で問い掛けた。他に方法はなかった。答があるとは思っていなかったが、〝声〟は即座に返答をしてきた。
──わしか? まあ、管理人とでもいいましょうか、世話人とでもいいましょうか。まあ、下働きのようなもんや。あんたらのドタバタで、わざわざ出張ってこないとならんようになってしもうた。
モチャモチャとした口調で〝声〟は、ぼやいている。
──今の何? 誰が喋っているの?
市川の頭の中に、洋子の声が響いた。
──宮元さん、あんたか?
市川は、洋子を姓で呼ぶ。山田や、新庄が「洋子ちゃん」と呼びかけているので、一度だけ真似して呼びかけたら、洋子は怒りを込めた視線で睨みつけてきて、返事もしなかった。
それ以来、「宮元さん」と呼びかけている。
──どうなってんだ? 動けない!
今度は、山田の声だった。いつもの山田に似合わない、恐慌が声に含まれている。
──すみません、御免なさい、僕が悪いんです……。
必死に謝罪の言葉を繰り返しているのは、言うまでもなく、三村だ。こんな状況に関わらず、相変わらず謝り続けている。
──木戸! おめえの仕業か?
問い詰めているのは新庄だ。口調は荒っぽく、怒りが満ちている。