祠
雑然とした、いかにも男所帯といえる、木戸の演出部屋の真ん中で、新庄が小躍りしながら、絵コンテ用紙の束を握りしめていた。
木戸は満足そうな笑みを浮かべ、やや照れくさそうな表情を浮かべていた。
市川は木戸の演出机を見詰めた。机の上には、うず高く、何冊もの絵コンテが束になって重ねられている。
新庄は机の上に重ねられている絵コンテを「ひい、ふう、みい……」と口の中で数を数えながら、指さしている。徐々に新庄の顔が、信じられないものを見た驚きに変わる。
「おい、十三冊あるぞ! まさか、木戸さん。ワン・クール分、描いちまったのか?」
木戸は、がしがしと頭を掻いて見せた。
「そうさ。まずかったかな?」
新庄の顔が、真赤に火照っていく。
「まずかっただと……。この野郎!」
叫ぶと、新庄は木戸の両手を握り締め、ぶんぶんと何度も上下に振り回し、どあはははははっ! と、ライオンの咆哮のように聞こえる笑い声を上げた。
「まったく、あんたって奴は、いっつもハラハラさせやがる! 凄いよ、木戸さん!」
新庄は天井を見上げ、おうおうおう……と泣き笑いになった。
すぐにピン、と背筋を反らし、直立不動になる。
「そうだ! お礼を申し述べないと!」
くるりと独楽のように身を回転させ、猛然とした動きでドアへと向かう。小走りで外へ飛び出すと、屋上の祠へ進み出た。
ぱんぱん! と拍手を打ち、二礼二拍手、一礼をする。
「この度は、わが【タップ】の危機をお救い下されまして、不肖、新庄平助、感謝感激、雨霰であります! これからも、【タップ】の行く手をお見守り下さるよう、伏してお願いいたします!」
市川は、そろりと新庄の背後に近寄った。
「新庄さん、その神様だけど……」
市川の呼びかけに、新庄は「ん?」と首だけ捻じって、振り向いた。
「どした? わが【タップ】の守り神が、何か気になるのか?」
ごくり、と市川は唾を飲み込んだ。
そうだ、いつも新庄は、この祠にお参りしていた。市川は、まるで関心がなかったのだが、考えてみれば、どんな神様が祀られているのかさえ、知らなかった……。
「うん。いったい、どこの神様だい?」
新庄は、ほくほく顔になった。
「有り難い神様だぞ! 商売繁盛の神様だ! そうだ、お前らにも見せてやろう!」
新庄は小腰を屈め、小さく一礼をすると、祠の扉を慎重に開いていく。さっと立ち上がり「どうだ!」と言わんばかりに、誇らしげに一同に披露する。