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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
エンディング
208/213

喜びの声

 がちゃり、と軽いドアの開く音に、市川は物思いから抜け出した。ドアの向こうから演出部屋の光がこぼれ落ち、木戸監督の太めの身体がシルエットになっている。

 新庄は噛み付くように叫んでいた。


「木戸さん! 絵コンテはどうしたっ? 今夜、絵コンテがないと……」

「判ってる……」


 木戸は新庄の言葉を途中でさえぎり、曖昧な動作で、軽く手を振った。新庄は木戸の唐突な態度に、一歩だけ不審気に引き下がる。


「木戸さん。判ってるんだろうな? 今夜がデッド・ラインだって……」

「ああ、できているよ」


 木戸は朦朧とした口調で答える。何だか、今まで、夢の中にいたような表情だ。

 新庄は、ぱくぱくと何度か口を開閉させた。


「できている……だと? 本当かっ?」

 驚きのあまりだろうか、掠れ声になっている。


「まあ、見てくれ」


 相変わらず、漂うような動作で、木戸は演出部屋に引っ込んだ。

 新庄は無言で、市川たちの顔を見やった。市川もまた、何が起きたのか、まるで見当もつかず、ただ無言で頷き返すだけだった。

 軽く頷き返し、新庄は演出部屋に踏み込んだ。

 新庄の後から、市川は、木戸の演出部屋へ入っていった。洋子の手は握りしめたままだ。ドアを潜る寸前、市川の視線は、屋上の一角を捉えていた。



 何だろう、何が気になるのだろう?



 改めて視線を集中させると、そこにあるのは、新庄がどこからか勧請したと称する、小さな祠があった。いつも新庄がお参りを欠かさない、神様が祀ってある祠である。

 新庄の悲鳴のような叫び声に、市川はそれまでの物思いを振り払った。


「本当だっ! 絵コンテができているぞっ!」


 新庄の喜びの声に、市川は慌てて演出部屋の中に身体を捻じ込む。

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