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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
エンディング
207/213

屋上

【タップ】の屋上には、びゅうびゅうと唸り声を上げる風が吹き渡っている。

 空を見上げると、幾層にも重なった雲が、アニメの多重マルチ撮影のような動きで、生き物のように飛んでいく。

 吹き渡る風が、市川の長い髪を巻き上げ、五十キロもない細い身体をぐいぐい押した。




 だんだんだん! だんだんだん!




 新庄プロデューサーが、気違いのように何度も屋上の演出部屋のドアを叩いている。


「木戸さん! 今すぐここを開けろ! 絵コンテはどうした? 打ち合わせは……」


 市川は不意に襲った立ちくらみに、ぶるっと頭を振った。一瞬、ぼうっとなっていた。

 思わず両目をごしごしと右手で擦り「あれ?」と呟いた。


 妙だ……この違和感は?


 そうだ、自分は眼鏡を架けていない! いや、そもそも、眼鏡を架けていたっけ?


 ぼんやりと市川は周囲を見渡す。

 ここはアニメの制作会社【タップ】の屋上だ……。おれは『蒸汽帝国』と言うアニメ・シリーズの作画監督をやっている……。

 一々確認しないと、自分が何者だか判らなくなるような不安に襲われていた。ふと気付くと、自分の手を、誰かがぎゅっと握りしめているのを感じる。


 目をやると、そこには洋子……色彩設計の宮元洋子の顔があった。洋子と市川の視線が絡まりあう。お互いの手がしっかりと握られているのを見て、かーっと顔が赤らむ。

 が、手は離さないでいた。なぜか、こうしているのが当然、と思っている自分がいた。

 洋子の胸元に目が行き、市川はまたまた自分の顔が赤らむのを感じていた。洋子の胸って、こんなにでかかったか? 信じられないほどの膨らみは、彼女の顔ほどもありそうだ!



 よせ! 今はそんな場合じゃない!



 市川は慌てて周囲をもう一度、見回す。

 洋子の後ろには山田……美術監督の山田栄治の姿があった。

 怒鳴っているのは新庄プロデューサー……新庄平助【タップ】代表取締役。


 なぜ自分は、こう何度もお互いの名前や、職種を確認しているのだろう?

 なんだか、長い旅行に出ていたような感覚が、身内に残っている。

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