風
木戸がエリカ姫に顔を向けると、姫はさっと顔を背ける。
新庄が同情した表情で話し掛けた。
「諦めろよ。あのエリカ姫は、今はもう……」
「判っている」
木戸は未練たっぷりに頷き、言葉を続ける。
「けど、新しいキャラクターを作ったらどうだ? 例えばエリカ姫の双子の姉妹がいて、そのキャラクターが、おれに惚れるなんてストーリーを作れば……」
市川は木戸の身勝手さに、ほとほと呆れていた。
──あんたら、いい加減にしなはれ! ほんまにもう……。やってられんわ!
広間に〝声〟が響いていた。
ぎくりと一同は顔を挙げた。〝声〟がどこから聞こえてくるのか、きょろきょろと視線を彷徨わせる。
〝声〟は苛立っていた。
──やめや、やめ! これで【導師】は、あんたらの活躍で退治され、目出度し目出度しのエンディン
グや! 木戸はん。あんたの勝手には断固させへんで……。絵コンテは描き終わったんや。これから、あんたらは、『蒸汽帝国』ちゅうアニメのシリーズを、きっちりと最後までお仕事してもらうからな!
市川は叫んだ。
「それは、どういう意味だ? おれたち、帰れるのか?」
──そうや、あんたら、これから、とっとと【タップ】に戻ってもらう。時間も、あんたらの出発した時間や。つまり、現実では何事も起きなかった、ちゅうこっちゃ。
〝声〟は不機嫌そうに答えていた。
どこからか、風が吹き始めていた。現実世界に一同を連れ帰る、風のようだった。




