瓦礫
熱い蒸汽を浴びた【導師】は、両手で顔を押さえ、苦悶していた。
「うぐぐぐぐぐっ!」と呻き、くるりと背を向ける。
どたどたと【導師】は逃げ出した!
「どうなってんだ? あいつ、逃げ出すぞっ!」
市川は操縦席のスクリーンを見て、呆気に取られ、叫んでいた。
この展開は、予想していなかった。もっと激しい戦いがあるものと、完全に思い込んでいたのである。小さなスクリーンに映る、全員の顔は「当てが外れた」と言わんばかりである。
今の蒸気の噴出は、プロレスで言えば、最初の小競り合いみたいなものだ。ちょっとお互い、様子見にビンタの応酬をし合って、「さあ、やるぞ!」と本気になる寸前である。
それが、あっけらかんと、尻に帆を掛け、逃げていく。まったく信じられない。
「追いかけましょう」
三村が司令席から、平板な、まるで抑揚のない口調で命令する。
山田は唇をへの字に曲げ、頷き、ロボを進ませる。
【導師】は王宮を目指している。顔を覆い、背を丸め、王宮へ続く大通りを、まっしぐらに駈けていく。
王宮の正門は、【導師】が通り抜ける際、目茶目茶に破壊され、悲惨な状態だ。【導師】は脇目も振らず、がらがらと瓦礫を掻き分け、王宮に飛び込んだ。
「何だか、あいつ、小さくなっていないか?」
新庄が両目をぎろぎろと光らせ、呟いた。
市川は同意していた。そうだ、最初【導師】は、頭が王宮の門につかえていたはずだ。ところが、今は半分も背は高くない。
山田は王宮の正門前で、ロボを停止させた。
このまま王宮を突っ切る訳にはいかない。蒸汽ロボが通りすぎたら、今度は完全に破壊してしまうだろう。
ロボットは上半身を前方へ傾け、両手を地面につけ、人間で言えば、土下座の格好になる。
ぱくん、とロボットの胸が開くと、全員の操縦席が顕わになった。地面に向け、タラップが伸びて、全員は地面に無事に降り立った。