蒸気
「洋子ちゃん、そんなの装備していないよ」
うんざりしたような、山田の声がする。洋子は不満そうな声を上げた。
「ミサイル、ないの? ロボット・アニメなのに……」
市川は洋子に向け、送話装置のスイッチを入れる。
「時代設定に合わないよ。他のなら、ある」
ロボット自体が、時代設定に合わないのは言いっこなし! あれこれ考えると、市川は幾つもの科学考証を無視しているはずだが、ともかくミサイルは、『蒸汽帝国』の世界観と合わないと思い、採用していない。
「それじゃ、このボタン押すわよ! いいのね?」
早口で洋子が確認を求めてくる。
新庄は躊躇いもなく同意した。
「やれ! 洋子ちゃん!」
サブ・スクリーンの中の洋子が身動きして、手元が何かのスイッチを押した!
ずおおおおっ!
蒸汽ロボの口から、白い蒸汽が噴き出す。蒸汽は【導師】の全身を包んだ!
もちろん、今までの場面は、直接には市川は視認できない。設定したとき、ロボットの口からは蒸汽が噴出するなどの、武器設定はしている。だから、そうなんだろうと思うだけだ。
だが、これが済んだら……。
元の世界へ戻って『蒸汽帝国』が無事にオン・エアして、軌道に乗り、今の場面が仕事で回ってきたら、市川は何が何でも、自分で原画を描くのだと、固く決意をしていた。他の誰にも、任せたくない!
スクリーンでは、【導師】が全身に蒸汽を浴び、のた打ち回っていた!