ハッチ
市川は通路から苦労して振り返り、ハッチの向こうから覗き込んでいる洋子を見た。
「おい、宮元さん。どうするんだい? 来るのか、来ないのか、決めてくれ!」
「この馬鹿らしい世界からおさらばできるなら、しょうがない。付き合うわよ!」
洋子は頭からハッチに潜り込む。が、ハッチに洋子の巨大な胸が突っかえてしまった。たちまち洋子は、顔を真っ赤に染めた。
「引っ掛かったじゃない! 市川君、なんとかしてっ!」
じたばたと両手を市川のほうへ突き出す。
市川は慌てて洋子の両手を掴み、渾身の力を込め、引っ張った。
「きつーいっ! 設定するとき、何で、もう少し広めに設定しておかないの?」
洋子は悲鳴を上げ、市川は困惑していた。
「まさか……宮元さんが引っ掛かるとは……思っても見なかった……ハッチは……山田さんの腹が通ればいいと……思ってたが……あんたの胸が……こんなに……でかいなんて! 糞、計算違いだ!」
息を切らせ、途切れ途切れに答える。本当に、洋子の胸は大きい! 何たって、山田の腹より大きいのだから……。
すでに操縦席に着いている山田、新庄、三村の三人は、ぴったりと全身が収まっていて、動けない。市川一人が、対処するしか他に方法はなかった。
足を通路の壁に突っ張り、市川は全身の力を振り絞り、悪戦苦闘する。
ずるずるっ! と、遂に洋子の上半身が滑り出した!
どどっ、と洋子の身体が押し出されるように通路に倒れこむ。洋子の身体の下に、市川は押し潰される。市川の顔に、洋子の胸がふんにゃりと押しつけられた。
「むむむむむむ!」
乳房に顔を思い切り埋め、市川は窒息して喘いだ。
息が全然できない!
はあっ、はあっと荒い息を上げ、洋子がようやく腕をついた。市川は、やっと洋子の胸から解放された。
ぷあーっ、と市川は空気を求め、大きく口を開けた。新鮮な空気が、どーっと肺に送り込まれる。
と、上から洋子の顔が、近々と覗き込むように接近していた。
洋子と市川の瞳は、まじまじと見詰め合っていた。
洋子の頬がぽーっ、と赤く染まる。
綺麗だ……と、市川は、なぜか思っていた。
洋子が目を閉じる。唇が近づく。洋子の息が、市川の顔に掛かっていた。
「来るぞっ! 二人とも、早く席に着いてくれっ!」
出し抜けに新庄の喚き声が響き渡り、二人は「はっ」と我に帰る。
そうだ、こんな場合じゃない!
市川と洋子は、そそくさと起き上がり、各々の操縦席へ潜り込んだ。