怪獣
大公以下、バートル側の全員は「ひえーっ!」と甲高い悲鳴を上げ、じたばたと手足を足掻かせ、大広間から退散した。後に残るのは、三村とエリカ、市川たちだけだ。
ずしり、と重々しい足音を立てて【導師】が一歩を踏み出す。【導師】の頭は、大広間の天井にすれすれに届くほどになっている。
【導師】は、見る見る体躯を膨れ上がらせ、巨大化していた。
全身に甲羅のような皮膚を纏いつかせ、【導師】は丸太ん棒のような腕を、ぶーんと音を立て振り回す。
──許せん……成敗してくれる……!
ごぼごぼと泡立つような音声で、【導師】は叫んでいた。もはや、人間とはいえない奇怪な姿に変形していた。
岩の固まりのような拳が殺到するのを、さすがに市川は、のんびりと待ってはいられない。さっと身を翻して、拳を避ける。
が、すれすれに通過した拳は、恐ろしい風圧を持っていた。
ばさっ、と市川の髪の毛が逆立つ。
「うひゃあ! すげえ、迫力!」
「呑気な台詞を、口にしている場合か!」
市川の軽薄な台詞に、山田が眉を険しくして叱り付ける。
「そんな、呑気に構えてるわけじゃないけどさ……! みんなっ、この場に愚図愚図してられねえっ! 外へ出るぜ!」
市川の叫びに一同「おうっ!」と応え、どたばたと足音を蹴立て、出口へ向かった。
どすん、どすんと大きな足音を立て【導師】が迫ってくる。肩が大広間の柱に当たると、割り箸のように、簡単に石柱がぼっきりと折れてしまう。
みしみしと天井に罅割れが走り、あちこちから漆喰が剥がれ、ぼろぼろと床に撒き散らされた。
市川たちは王宮から外へ逃走して、飛行船の駐機場所へと向かう。三村はホルスターから信号銃を抜き、空へ向けて一発撃った。
ぱあーん……と乾いた音がして、晴れた空に信号弾が炸裂する。ぱっと白い煙が広がり、どおーんと遠くから、飛行船の空砲の応えがあった。
市川は、ちらりと背後を振り返る。
ぐわらぐわらと、王宮の建物を崩し、今や身長が数十メートルにも膨れ上がった【導師】が、破片を飛び散らかして姿を表す。
すでに全身は王宮の最も高い尖塔より高く、のっしりと歩く姿は、怪獣だ。