影
山田の質問に、大公は身を硬くした。表情が暗くなり、視線が鋭くなった。
「そ、それは……」
「お父様……!」
口篭る大公に、エリカ姫が励ますような口調で話し掛ける。
「総て、何もかも洗いざらい、お話しすべきだわ! バートル国がいかに【導師】に押さえつけられているかを」
エリカは、ぐっと三村に向き直った。
「今こそ話します。なぜ、我が国がドーデン帝国に比べ、テクノロジーが遅れているか。それは【導師】のためなの。【導師】は蒸汽の力を嫌い、国民が便利な生活をするのを妨げています」
市川は首を捻り、呟く。
「なぜ、そうなんだ?」
山田が「ふむふむ」と頷きながら答えた。
「多分、蒸汽のテクノロジーを導入して、国民の生活が一変すると、信仰心が薄れるからだろうな。魔法使いたちが、おれたちの『最終兵器』で兵士たちに物欲を生じさせた途端、力を失ったのを見たろう?」
市川は合点した。確かに生活が便利になれば、人々は理不尽な信仰など、維持するのは難しくなるのは、理解できる。つい、軽薄な口調で市川は口を開いていた。
「なーるほど! とんでもない【導師】様だなあ! 一遍、顔をとっくりと見てみたいもんだ!」
……そんなに、わしの姿を目にしたいのか? 不遜者め!
洞窟の奥から轟くような奇妙な音声が、大広間を満たした。その場にいた全員が、凍りつく。
大公の表情は、真っ青になっていた。
「【導師】様だ! お、お許しを!」
はっと市川は顔を挙げ、大広間の天井近くに、むらむらとした影が差しているのを認めた。影は凝固し、一つの形を作り出す。
待ってました!
思わず市川は胸の中で快哉を叫んでいた。
いよいよ【導師】との対決である。