外交
感動の再会があって、ドーデン帝国とバートル国の和平交渉は、王宮で執り行われるという決定がなされた。三村はドーデン側の交渉団長に任命され、市川たちは王子の随行員として招待される。
もとより、三村は王族の一員として、あらゆる外交交渉を一任されていたから、これからの決定は公式のものとされ、記録に残される。
大広間に丸テーブルが用意され、簡単な朝食が供された。市川はまた激辛料理かと用心したが、朝食は、パンと珈琲、ジャム、ハム・エッグと、ごく普通のものだったので、安心した。また、あの舌が燃えるような料理は勘弁願いたい。
「そちらでは、我が国に、技術援助のお考えがおありだそうですな?」
大公は人の良さそうな笑みを浮かべ、三村に話し掛ける。三村は大いに頷いた。
「まったく、その通りです。いずれ僕は、エリカ姫の婿として、この国に住まうと思いますが、バートル国は我が国の得意とする蒸汽テクノロジー分野については、少々遅れているようですね」
大公は渋面を作り、目の前の料理を気のない様子で突っついた。
「悲しいかな、王子様の仰るとおりで御座いますわい! 冬になると、国民は苦労して森へ薪を取りに出かけなくてはなりません。そのせいで、我が国の森は大部分が禿山と化してしまいました……。森に木がなくなると、山崩れや洪水の原因になります。しかし、国民に、森の木を刈るなと禁令を出すわけにはいかず、困っております」
三村は真摯な表情で話を続ける。
「それなら、蒸汽炉を建設すればいい! 大量の蒸汽を石炭などの化石燃料で作り出し、各家庭に供給するのです。蒸気は家庭用品の動力源にもなりますし、冬の暖房にも使われます。厭な匂いの煙や、煤も出ません! 実現すれば、大公閣下は、国民に感謝され、支持率も上昇しますよ!」
大公の表情が一変した。為政者として、支持率の話題は聞き逃せないのだろう。
市川は、じりじりとしていた。
こんな矢鱈のんびりとした会話、いつまで続くのだろう。ストーリーのクライマックスは、もう近づいてきているはずなのに。
ぼんやりと大広間の天井を見上げる。大広間の天井はドーム型で、屋根を支える柱が何本も林立している。全体に西洋の教会建築ぽい造りで、違いは、宗教画のあるなしくらいだ。
そう言えば、バートル国は精神的な支配を受ける、神聖王国だったな。
「ところで、貴国には【導師】とか呼ばれる支配者が存在するようですな」
途中で、市川の思いを代弁するように、山田が口を挟み込んだ。市川は思わず聞き耳を立てていた。