執念
──何をおっぱじめるつもりなんや……。
木戸は、ぎくりと身を強張らせる。
〝声〟だ!
このところ、さっぱり話しかけてこなかったが、〝声〟が木戸を監視しているのは、はっきりと感じていた。
木戸が自分の考えで絵コンテを進め始め、泡を食ったのだろう。
──やめなはれ! あんたは、そんなガラじゃおまへんで……。素直に、最初のストーリー通りに描けばよろしいのや! あんたには、オリジナルのストーリーを作り出す能力は、これっぽちもあらへんのや!
「うるせえ……」
木戸は低く唸り声を上げた。歯を食い縛り、悪戦苦闘しつつ、絵コンテ用紙を自分の中から湧き出てきたカットで埋めていく。
完全に自分のアイディアだけで場面を思い浮かべるという作業に、木戸の額からびっしりと汗が噴き出る。
背を丸め、机に齧りつくようにして、木戸は鉛筆の先をごりごりと彫りこむように、絵コンテ用紙に押しつけた。
力を込めすぎ、何度も鉛筆の先が折れた。折れると、鉛筆削りにがりがりと先を突っ込んで尖らせ、再び仕事を続ける。
数カットを描いただけで、先が続かず、作業は何度も中断された。
が、木戸は諦めず、絵コンテを書き進めていた。
もはや執念のみが、木戸の指先を動かしていた。