酒
「今まで散々、あんたらには色々と世話になっただ……本当っに、お前ら、おらたちを絞り上げてくれただよ!」
ずい、と兵士たちは足並みを揃え、魔法使いたちとの距離を詰めた。魔法使いたちの顔に、一瞬の怯みが見えた。
しかし、すぐ、支配者としての誇りが頭をもたげる。
「何を貴様ら……平民のくせに……」
「偉そうな口、利くんじゃねえっ!」
兵士たちの間に殺気が走った。
「やっちまえ! こいつら、今まで、おらたちを馬鹿にしてきたんだ! 魔法が使えねえ奴らなんか、怖くねえどっ!」
おうっ! と全員が気を揃え、どどっと足音を立て、魔法使いたちを取り囲んだ。
「わわわっ!」
魔法使いたちは、おろおろと悲鳴を上げる。もはや、兵士たちを威伏させていた権威の衣は、すっかり剥げ落ちている。
「たっ、助けてくれーっ!」
腰が砕けた、見っともない格好で、ばたばたと逃げ出す。兵士たちは、顔中に殺意の喜びを浮かべ、一斉に掴みかかった。
その時、ステージで成り行きを見守っていたトミーが動き出した。
ぱん、ぱん、ぱんと両手を頭の上でゆっくりと叩いて、一同の注目を集める。
「皆さ──んっ! 暴力はいけません。お平らに、お平らに!」
兵士たちは何事かと顔を上げる。
「ええ、皆さん。お疲れではありませんか? お怒りはごもっとも思いますが、暴力はいけませんよ。それより、お疲れでしょう。こんなのは、いかがでげしょう?」
さっとトミーが合図すると、バニーガールのアシスタントが、舞台の下手から、何やら幾つもの樽を台車に載せて運んできた。
兵士たちの表情が一変する。
「酒だ……」
兵士たちの間から「おう!」と歓声が上がる。
トミーは頷く。
「はい、皆さんのために、宴会の準備を整えてまいりました。戦いは一時中断して、陽気にやりましょうや!」
再度トミーが合図すると、演台で待ち構えていたバンドが、楽器を手に、演奏を開始した。
演奏しているのは、いかにも田舎風の音楽である。兵士たちの顔に、開けっ広げな笑みが浮かぶ。
トミーは、ドーデン軍にも声を掛ける。
「そちらの皆さんも一緒にどうでげす?」
ドーデン軍は、おずおずと立ち上がり、お互いの顔を盗み見合った。
兵士の視線は、部隊を指揮する、部隊長に向かっている。ドーデン軍の部隊長や、その上の指揮官たちは、上空に停泊している空中空母を見上げていた。
通信士官が顔を上げ、指揮官に叫んだ。
「空母御座乗のアラン王子殿下より入電! もはや、戦闘の理由はなくなった! ゆえに、これより一同に休暇を命ず……です!」
ドーデン軍の緊張が、一瞬にして解けた。指揮官たちは軽く頷き、部隊長に顎をしゃくって参加するよう指示する。兵士たちの間から、嬉しげな嬌声が上がる。
ドーデン軍と、バートル軍の兵士たちは、ステージに駆け上がり、並べられた酒樽を仲良く、えっちらおっちらと地面に運ぶ。栓が抜かれ、各々手にしたコップに、なみなみと液体が注がれた。
誰ともなく乾杯の音頭が上がり、戦場はあっという間に宴会場に様変わりする。
魔法使いたちは手早くバートル軍の兵士たちによって縛り上げられ、宴会の薄暗がりに放って置かれている。
誰かが故郷の歌を歌い出し、手拍子が加わり、気の利いた兵士が空き地に薪を運び上げ、焚き火が燃え上がった。
まさに、呉越同舟である。