魔法使い
効果は覿面だった。
たちまち、兵士たちは我先に立ち上がり、ステージに殺到する。全員の顔に、欲望が滾っていて、もはや戦争の真っ最中である状況など、頭の中には欠片も残っていない。
「おらもやるぞ!」
「おらもだ! おらを先にしてくんろ!」
「あに言うだよ! おらが先に声ぇ掛けたんだぞ!」
「お前は引っ込んでろ!」
「なにいっ!」
殺気が充満し、兵士たちはお互いの顔を、親の仇のような視線で見合った。さっと、腕が引かれ、ぽかりと殴る音がして、どさりと誰かが地面に倒れ伏した。
それが切っ掛けとなり、あっという間に、辺りは騒然となった。殴る蹴る、引掻く、首を絞めるの大騒ぎである。
乱闘を、トミーはニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべ、見渡している。
「やめいっ! お前たち、帝国の罠に掛かっておるのだぞ!」
凛然とした声が、その場を支配していた。
声に、兵士たちは、ぎくりと身を強張らせた。しーんとした静寂が戻ってくる。
兵士たちを掻き分け、魔法使いの一団が怒りの形相物凄く、のしのしと周囲を睥睨しつつ歩いてくる。
ぱっと魔法使いの一人が兵士たちに向き直り、叫んだ。
「お前たち、バートル神聖王国の臣民ではないか! このような有様を【導師】様がご覧になられたら、どのようなお怒りを受けるか、考えてみるがいい!」
魔法使いに叱責され、兵士たちはこそこそお互いの目を見合っている。
時々、物欲しそうな視線を、ステージの品に送ってはいたが、魔法使いたちには逆らえない様子だった。
魔法使いたちは、じろりとステージに目をやり、手にした杖を突き出した。
「このような悪しき品々、我らが破壊してくれるわ!」
杖を突き出した魔法使いたちは、ぶつぶつと口の中で呪文を唱え始めた。
気合が高まり、杖を鋭く振り上げる。
その場に戦慄が走った。