絶望
市川の視線に気付いて、木戸は慌てて机に飛びつこうとした。だが、市川は、すでに手を伸ばして絵コンテ用紙を掴んでいた。
達者な筆致で、絵コンテ用紙にカット割が描かれている。
あれ? と市川は絵コンテの絵柄を見て、内心「はて?」と首を傾げた。
木戸の原作である『蒸汽帝国』の最初の出だしとは、随分と違っている。こんな場面、記憶には存在しない……。
用紙の隅に記されている番号を確認して、市川は驚きの声を上げた。
「ページ番号は〝5〟じゃねえか! まさか、五枚しか描いてない、なんて……」
木戸を見ると、消え入りたそうに身を縮めている。顔色は真っ赤である。
新庄は両目を見開いた。
「まさか……本当に五枚だけなのか? 他にないのかっ!」
市川は演出机を見回し、首を振った。
傍らにはゴミ箱があって、その中には、ぎっしりと反故になった絵コンテ用紙が詰め込まれ、溢れそうになっている。
「うぐっ、うぐっ! えっ、えっ、えっ!」
突然、木戸の両目に、涙がぶわっと噴き出た。鼻の穴から、たらりと鼻水が垂れ落ちる。
ぺたり、とその場に蹲り、いやいやをするように頭を振った。
「や、やろうとしたんだよ……。一生懸命、絵コンテを上げようとしたんだ……! で、でも駄目だあ……おれには、できねえっ!」
ぱたぱたぱた……、と天井の明かりが瞬いた。ぐわらぐわらぐわら……、と窓の向こうから雷鳴が聞こえてくる。
「何てこった……」
新庄が呆然と呟いた。両手がだらりと力なく垂れ、両肩が下がっていた。表情には絶望がありありと見えていた。