トミー
上手から、一人のひょろりとした姿の男が、飛び跳ねるような足取りで駆け込んでくる。
真っ赤なタキシードに身を包み、馬鹿でかい蝶ネクタイを首に締め、頭髪はぺたりとポマードで固め、なぜかピンと両端が三角形になった、伊達眼鏡を掛けている。全身、すべてスパンコールがびっしりと埋め込まれ、身動きするたび、照明にきらきらと輝いた。
男は、ニタニタ笑いを浮かべながら、くねくねと上半身を動かして、手にでっかいマイクを握りしめ、真っ白な歯を剥き出した。
「おこんばんわ~っ! どちら様も、戦いの手を止め、ほんの少し、ミーの話を聞いておくんなまし! 拙の名前は、トミー・タミーと名乗り申し上げまするはべれけれ……。おやっ! そちらにいらせられまするは、バートル軍のお兄がたさんじゃ、あーりませんか! いや、お懐かしい……。と言っても、あたしゃ初対面でござんす」
「ミー」「拙」「あたし」と、トミーと名乗った男は、ころころと自称を乱発する。
胡散臭さの国から、胡散臭さを広めに来たような男であった。
全員が呆気に取られ、ただただトミーの次の台詞を待ち受けている。トミーは、この場を完全に支配しているのを確信し、自信たっぷりな態度で、兵士たちを眺め渡した。
「そこの人! そう、あなたでござんす!」
トミーがさっと腕を伸ばし、ボケッと佇んでいるバートル軍の兵士を指さした。
さっと飛行船からサーチライトが動いて、指さされた男の姿を照らし出す。兵士は吃驚仰天し、キョロキョロと辺りを見回す。
ずんぐりとした身体つき、日に焼けた顔は、長年の農作業を物語る。もじもじと意味なく捻くっている指先はごつく、土にまみれた生活を示していた。典型的な農民の顔である。
「なーに、ポカンとしているんでござんすか? あーた、あーたのこってすよ! ちょっと、こっちへ、いらっしゃいまし!」
ステージのどこからか、若い女の子のアシスタントが姿を表した。頭にウサギの耳を付け、カジノのバニー・ガールのような衣装を身に着けている。女の子は二人で、満面に笑みを浮かべて、トミーが指さした兵士に駆け寄った。
若い女の子の出現で、指差された兵士は、どぎまぎして顔を真っ赤に染めた。アシスタントは両側から男の腕を抱え、軍隊の中から引きずり出す。
引っ張られ、兵士はトミーの待つステージに、おずおずと近づいていく。トミーは両腕をぶるんぶるん振って、兵士をステージに上げるよう、アシスタントに指示をした。