最終兵器
戦いは長引き、夕闇が近づいた。
市川たちの最終兵器投入には、絶好の時間だ。
輸送飛行船が静々と戦いの場に近づき、ゆっくりと高度を下げ始めた。
戦闘中のバートル軍と、ドーデン軍は、新たな飛行船の接近に気付き、隊形をゆるゆると変え始めた。
バートル軍は新手の攻撃を予想し、無事な部隊を前面に配置する。ドーデン軍は兵力の増強を期待して、傷ついた兵士を後方に下げ、バートル軍と向かい合う形を取る。
両軍の真ん中に、飛行船は着地した。バートル軍側に横腹を剥き出しにした態勢だ。バートル軍が大砲などの、火砲がないのを確信した、大胆な行動である。
もし、バートル軍に砲弾を撃ち出す大砲、砲車があれば、飛行船は即座に集中砲火を浴び、炎上している。
飛行船の、唐突な行動に、戦闘は一時中断し、しーんと戦場は静まり返っている。
と、出し抜けに、飛行船の全体が、目映く輝き出した。赤、青、黄色、緑、ピンクと、あらゆる色調のネオンが、電飾がぴかぴか、ちかちかと瞬き、ついで巨大な音量で、この場にふさわしくない、陽気な音楽を奏でる。
軽薄で、豪華で、しかも、あまりに騒々しいが、耳にしたら身体が勝手に踊り出そうとするような音楽である。おまけに、あまりにも陽気すぎ、何度となく聞いても憶えられないほどだ。
両軍の兵士は、意外な展開に、戦いも忘れ、ポカンと馬鹿のように口をぱかりと開けたまま、見守っているだけだ。
飛行船の扉がぐぐーっ、と開き始めた。内部からは、さらなる光芒がこぼれる。音楽がさらに高まり、絶頂を迎えている。
現れたのは、ステージだった。フルバンドが演台に向かい、指揮者が踊るような仕草で指揮棒を振っている。