地団駄
しかし、身動きが不自由になるのは、ドーデン軍も同じだった。血に飢えた兵士たちは、真っ白なつるつる滑るクリームの上で、あっちにうろうろ、こっちですってん! もはや、戦いではない!
戦いの帰趨を見て、苛立っているのは、ボルト提督も同じだった。ばんばんと音を立て、手近の机を何度も叩き地団駄を踏んでいた。
「何と言う阿呆らしい戦いだ! これは、まともな戦いとは、言えん! いったい、誰がこのような馬鹿らしい兵器を持ち込んで来たのだ? 処分してくれる!」
「わたしだ」
氷のような冷静な声が、茹蛸のように真っ赤に上気した提督の顔を、一気に白くさせる。提督は驚きの表情を浮かべて、長官の椅子に腰掛けている三村──アラン王子を見上げた。
「王子殿下が持ち込んだと仰るのですかな?」
提督の呆れ声に、三村は静かに頷いた。
「そうです。わたしがあの新兵器を試すよう、手配したのです。この戦いは、なるべく犠牲者を出さぬよう、工夫したつもりです。何かご不満でも?」
提督は、たらたらと汗を額から噴き出させた。
「い、いや……王子殿下、おん自らのお考えとあれば、わたくしは何も……」
三村は顔を挙げ、スクリーンに向き直った。
「提督、よく御覧なさい。戦いの決着をつける、最終兵器が登場しますよ」
「最終兵器……」
三村の「最終兵器」という言葉に、提督は瞬時に気色を取り戻した。提督の頭の中には、敵を一挙に葬り去る、恐ろしげな武器の姿が浮かんでいるのだろう。
市川は密かに北叟笑んだ。
お生憎様! 三村の言う「最終兵器」とは、とてもとても、そんな恐ろしげな兵器であるものか!
もっと馬鹿らしい、もっと途轍もなくとんでもない、市川と山田が頭を捻って設定した兵器なのだ。
楽しみだ……。
市川は一人、ニヤニヤ笑いが浮かぶのを抑えきれない。