クリーム
「おい!」と、隣で呆けたようにスクリーンを注目していた山田が声を掛けてきた。
「戦いが始まるぞ……」
市川は、慌ててスクリーンに視線を戻す。
バートル兵士の半分ほどが粘液に絡め取られのを見て、ドーデン帝国軍は勢いを取り戻した。輸送飛行船から飛び出した味方の兵士たちと合流して、反撃に転じる。
輸送飛行船から飛び出したのは、軽快そうな動きを見せる四輪車であった。四輪車の屋根には、機関砲そっくりの武器が搭載している。
四輪車の周りには、国境警備隊と、輸送飛行船に乗り組んでいた歩兵隊が付き従い、じりじりとバートル側に向けて進軍している。バートル側も、ドーデン帝国軍の動きに気付き、無事な部隊が隊形を整え、迎撃の構えを取った。
四輪車の屋根には、機関砲を操る兵士がいる。兵士はバートル側に向け、機関砲の筒先を向けた。
機関砲が火を噴いた。
ぽんっ! ぽぽぽぽっ……ぽんっ!
いやに軽い音を立て、機関砲から真っ白な蒸汽が吹き出した。これは蒸汽の力で弾丸を発射する、蒸気機関砲なのだ。
機関砲の筒先からは、真っ白な弾丸が飛び出していく。真っ白な弾丸は、バートル軍に飛び込んでいった。
べちゃっ! べちゃっ、と真っ白な弾丸が、バートル軍の兵士にぶち当たる。
兵士たちは帝国軍の攻撃に、ポカンとした顔を上げ、お互いの顔を見合っていた。表情には、大きく疑問符が浮かんでいた。
全然、応えない。
べちゃっ! もう一度、白い固まりが兵士たちの顔を汚す。兵士はたらたらと顔に垂れて来た液体を手で拭い、べろりと舐めた。
「パイだ! こりゃ、ただのパイ・クリームだぜ!」
一人の兵士が、大声を上げた。
べちゃっ、と大声を上げた兵士の顔に、もう一度べっちょり白いパイがへばり付いた。
たちまちバートル軍は、真っ白なパイ・クリームに包まれてしまった。
「糞ぉっ! 奴ら、ふざけているのかっ!」
クリーム攻撃に怒ったバートル軍は、接近してくるドーデン軍に向き直った。兵士たちは思い思いに手に剣を持ち立ち上がる。
つるり!
「うひゃっ!」
「あ、歩けないぞ!」
口々に言い合う。
もはや、地面が見えなくなるほど、一面の真っ白なクリームに埋もれている。クリームが滑り、バートル軍はまともに動けなくなってしまっている。
進もうとするが、足はべっとりと広がったクリームの上で、虚しく足掻くだけだ。
襲い掛かるドーデン軍は、歓声を上げていた。
バートル軍の兵士たちの顔に、恐怖が浮かんでいた。殺戮の予感!