遭遇
「バートル軍、確認! 国境山岳地帯を、縦走しつつあり! 三方向から集結中! 国境警備軍と、遭遇の報告!」
画面が切り替わり、地上の眺望となった。
場面は、国境を守る警備隊の様子を映し出している。地面に長々と塹壕が掘られ、丘の頂上には、所々に監視台が設けられて、数人の兵士が手に双眼鏡を持って、不安そうな顔付きで遠くを眺めている。
空はどんよりと曇り、景色は寒々としていた。
スクリーンを眺めながら市川は、いつも思うのだが、「戦場をモニターする画面を撮影するのは、誰なのだろう?」と考える。送信してくるからには、誰かが危険を犯して、カメラを操作しなければならない。無人カメラであっても、こちらかの指示でパンしたり、ズームする要員が必要である。
空中からの映像では判然としなかった、バートル軍の詳細が映し出される。
ぴょんぴょんと地面を跳ねるように、骨と皮だらけの竜が接近してくる。足はなく、真っ直ぐな尻尾で地面を打って、跳ねている。
竜そっくりだったが、実は巨大なタツノオトシゴだった。タツノオトシゴの背中には鞍があり、手に槍を抱えた兵士が乗っている。
竜騎兵だ! 以前見た重装騎兵ほど分厚い装甲はなく、動きは軽快である。
ずしんずしんと地面が震動し、遠くから巨人が近づいてくる。手にはごつごつと瘤のついた棍棒を握っている。身体は岩でできた、岩の巨人である。顔付きは魯鈍で、身動きも鈍重だが、無敵の力を誇るバートル国の攻撃の中核だ。
空の彼方からは、透明な四枚の羽根を持った、細長い生き物が接近してくる。巨大な複眼……。蜻蛉だ! 蜻蛉の背中にも、兵士が跨っている。蜻蛉は各々、脚の指に何か、石の固まりのような物を握っていた。
蜻蛉は握っていた石を、ぽとりと落とした。
石はひゅーっ、とまっしぐらに地面に落下した。落下したのは、警備隊の真ん中だった。
ぱかりと石は二つに割れ、中からわんわんと五月蠅く羽音を立て、何かが飛び出した。
わあーっ、と悲鳴を上げ、周りの兵士がばたばたと手足を打ち振り、踊るような足取りになって懸命に何かを払いのける。
石は蜂の巣だったのだ。飛び出したのは、熊蜂、雀蜂、足高蜂など、猛毒を持つ危険な種類の蜂ばかりである。