演出机
演出部屋は、四畳半ほどの広さしかない。床はリノリウム張りで、上に薄手のカーペットを敷き詰めている。
ドア近くに、透過台を組み込んだ演出机があり、反対側に数個のキャビネット、スチール棚が、ごちゃごちゃと立ち並んでいる。
棚の一つには、木戸が持ち込んだDVD再生機とモニターがあって、木戸は時々このモニターで、興味があるアニメや、特撮映像を楽しんでいた。木戸はオタクであった。
演出机の棚には『蒸汽帝国』のフィギアが飾ってある。『蒸汽帝国』が伝説の漫画として神格化されると同時に、フィギアが発売され、コミケなどで販売されている。木戸は大喜びで見本を受け取り、自慢していた。
ずんぐりとした身体つきに、薄汚れたTシャツ、ぴちぴちのジーパンという格好で、木戸は微動だにせず、立ち尽くしている。四角い顔に、小さな銀縁の眼鏡を架けている。顎には薄っすらと無精髭が浮いていた。落ち窪んだ瞳に、憔悴しきった色が浮かんでいた。
ずい、と新庄が木戸の目の前に立ちはだかった。
「木戸さんっ! 説明してくれますね?」
言葉は丁寧だが、ぶっすり突き刺すような口調である。
再度、同じ言葉を繰り返され、木戸は「びくっ」と身を震わせた。虚ろな視線が不意にはっきりとして、目の前の新庄を認識したかのようだ。
「新庄さん……」
わくわくと唇が震えている。新庄は口調を変え、穏やかに話し掛けた。
「どうしたんだ? 今夜、絵コンテ打ちなんだろう?」
市川は視線を動かし、木戸の演出机に目を留めた。絵コンテ用紙が数枚、描きかけになっている。




