OK
市川は知っていた。山田は美術監督には珍しく、メカ設定も得意なのを。
たいていの美術監督は、自然や普通の建物を描くのは得意とするが、メカを描くのは苦手な人が多い。それどころか、メカ音痴を公言する美術監督すらいる。
市川は、山田より上の世代の美術監督の逸話を聞いている。アニメ業界に入ると決めた当日、今まで描き貯めた油絵の作品を、庭先で総て燃やした美術監督がいるそうな。
昔の美術監督の多くは、美大卒である。今はアニメ専門学校出が大多数であるが、それまでは油彩や、水彩を学んだ人間がたまたまアニメ業界に入ってくる経緯が多かったらしい。
市川には、自分の作品を焼き捨てる気持ちが、よく分からない。背水の陣といった、何らかの覚悟の表明なのだろうが……。
市川が聞いた話によると、山田は、本当は、イラストレーター志望だったそうだ。それも、SF小説の挿絵を描くのが夢だったと語っていた。だから、メカニックを描くのも、設定するのも得意だし、好きでもあった。それを市川は知っていたのだ。
「山田さんには、ドーデン帝国側の設定を任して、おれはバートル国の設定をするつもりなんだ。それに【導師】とかいうキャラクターの設定もしなければならないし……。それで、一つアイディアがあるんだが、バートル国側は、竜のような想像上の生き物を使役して攻撃する――ってのは、どうだ?」
山田は「ははあ!」と点頭した。
「なるほど! 剣と弓だけの中世的な武装じゃ、どう考えてもドーデン側の武器と釣り合いが取れないものな! うん、それなら、絵的にも面白くなる! 木戸さんもOKするかもしれないな」
市川は思わず、ぴしゃっ、と自分の額を叩いていた。
「そうか! すっかり忘れていた! 木戸さん、怒るかな? おれたちが設定するつもりの武器、装備は、完全にギャグものだからな。木戸さんがシリアス路線を頑固に守るつもりだったら、ヤバいかもな……」