誤解?
市川はエリカの香水に包まれ、ぼうっとなっていた。
「わたしは、バートル国の姫君として設定されました。当然、バートル国への愛着が生じます。わたしは、バートル国を救いたい! ドーデン帝国との戦争で、一方的にバートル国が負けるような展開は望みません」
エリカは囁くように話しかけていた。市川の耳もとに口を近づけ、恋人が囁くかのような口調で話しかけてくる。
「前にもお話ししましたが、わたしは【導師】と呼ばれるバートル国を支配する者に、アラン王子を殺害するよう暗示を掛けられていました。バートル国は【導師】の精神的支配に、雁字搦めになっています! ですから、【導師】の軛を、わたしは解き放ちたい! それには、あなたがたの設定が必要なんです!」
市川の視界一杯を、エリカの瞳が占領していた。市川はエリカの瞳に麻痺されたかのようで、身動きもできなかった。
と、出し抜けにエリカが身を引いた。
金縛りに掛かっていた市川は、ぶるぶるっと頭を振って息を吸い込んだ。
「お願いします。どうか、わたしの願いを叶えて下さいませ」
一礼して、エリカは足音もなく、その場を立ち去っていく。見送った市川は、凍りついた。
食堂出口に、腕を組んで、市川を、じいっ、と睨んでいる洋子の視線があった。遠ざかるエリカの背中を、洋子は意味ありげに見送る。
「へえ! そうなんだ!」
洋子は、嘲るような口調で言い放つ。
「な、何がだよ!」
市川は、なぜか度を失っていた。
「別に……」
プイ、と横を向いて、洋子は足音をわざと立て、足早に去っていく。
洋子を見送る市川は、なぜか猛烈に腹が立ってきた。
へっ! なあんでえっ!