木戸
新庄の怒鳴り声に、三村は両目を飛び出んばかりに見開き、振り向いた。
「木戸さんが、内側から鍵を……」
判りきった場面を説明してる。新庄は唸り声を上げ、三村をドアから引き剥がすように突き飛ばし、だんだんだんっ! と拳を上げて連打した。
市川は洋子に向けて尋ねる。
「木戸さん、引き篭もりなのか?」
洋子は呆れたような表情を浮かべた。
「馬鹿ね。それを言うなら立て篭もりって言いなさいよ」
市川は恥ずかしさに顔に血が昇るのを感じていた。新庄が喚いている。
「木戸さんっ! 開けてくれっ!」
怒鳴ると、耳をドアに押し当てた。ぐるぐると目玉が別の生き物のように動く。
「こっちへ」と新庄は、顎をしゃくった。新庄の周りに、市川たちが顔を近寄せる。
「こうなったら、ドアを押し破るしかないな。皆、協力してくれ!」
全員「うん」とばかりに、一斉に点頭する。
ドアの前に肩を組み、息を合わせた。
「行くぞ、せいのっ……!」
新庄の掛け声に合わせ、全員が破れかぶれでドアに体当たりを懸ける。
ばたーんっ! と思いもかけない大仰な音がして、ドアが部屋の内部へ倒れこんだ。勢いが余り、市川たちは部屋の中へ雪崩れ込んで、床にごろごろと転がってゆく。
演出部屋は真っ暗だった。
うろうろしていると、ドアの近くに立っていた三村が、ぱちりと電灯のスイッチを入れた。
ぱっ、と照明が点いて、白々とした明かりの中に、一人の人物が怯えきった顔付きで呆然と立ち尽くしていた。
木戸純一であった。