動揺
市川は、なぜかうろたえていた。視線が、エリカの胸元に行きそうになると、無理矢理やっとの思いで引き剥がす。
視線を引き剥がすとき「べりべりばりばり」と、音が響きそうだ!
「え、ええ……どうぞ!」
エリカ姫は、流れるような動作で、市川の真向かいの椅子に腰を降ろす。
市川は、この世界では、女性が座るとき、椅子を後ろから引くのが礼儀であるのを思い出していた。だが、すでにエリカ姫は座っているので、手遅れである。
エリカ姫は真っ直ぐ背を伸ばし、大きな瞳を、じっと市川の顔に向けている。市川は落ち着きをなくしていた。
「あのう……おれに、いや、僕に何か、用ですか?」
「あなたがた、ドーデン帝国の武器を設定するのでしょう?」
いきなり、ズバリと切り出され、市川は大いに動揺した。全身が化石となったかのように、指一本たりとも動けない。
「ど、ど、どうして……つまり、あんたは……?」
掠れ声で、やっと言葉を押し出す。
気がつくと、市川は両拳を、ぎゅっと握りしめていた。
エリカは頷いた。
「聞いたのです。あなたがたの相談を。あなたがたが、設定を描くと、それが現実になるのでしょう? 違いますか?」
市川は言葉もなく、エリカ姫の顔を見詰めているだけだった。浅黒い、といっていいエリカ姫の肌は滑らかで、大きな瞳と、きゅっと窄まった顎。どことなく、小栗鼠を思わせる、野性的な表情をしている。