設定作業
部屋から外へ出て、市川は気分を変えるために飛行船の食堂を目指した。飛行船は空飛ぶホテルとして設計されていて、豪華な食堂も完備されている。
真っ赤なお仕着せを身につけた給仕に、市川は珈琲を頼んだ。珈琲、紅茶など、嗜好品は『蒸汽帝国』の世界では何でもある。現実の世界と、どう歴史が違うのか判らないが、嗜好品に関しては、同じ歴史を歩んでいるようだった。
珈琲が運ばれ、市川は腕を組んだ。頭の中には、これから設定しなければならない、ドーデン帝国の兵器、装備品のアイディアが渦巻いている。
まだ、頭の中で、はっきりと纏まっていない。とはいえ、こうしてぼんやりと窓の外を眺めながら、ひと時を過ごすのも、アイディアを練る方法だ。テレビのワイド・ショーなんかを頭を空っぽにして見るのが、一番アイディアが出るのだが。
しかし、『蒸汽帝国』の世界ではテレビは存在しない。我慢しなければならない……。
待てよ?
市川は首を捻った。
もし『蒸汽帝国』の世界に、テレビが存在するという設定にすれば、この瞬間からテレビが出現するのだろうか?
と、市川の鼻に、香水の甘い香りが漂ってきた。
気付くと、エリカ姫が側に立っている。
「お邪魔でしょうか?」
エリカ姫は真剣な眼差しで、じっと市川の顔を見詰めている。身につけているのは、洋子が見繕ったらしい、薄緑色のワンピースであった。
襟ぐりが深く、エリカの胸元からは、谷間がもろ見えになっている。洋子の趣味だろうが、ちょっと色っぽすぎる!




