三村の決意
恐らく洋子も吹き出したいのだろう。それでも神妙な態度で話しかけている。
「あのう……、お姫様、ここに来てからお召し物、替えていないと思うんですが。着替えがありますので、選んではどうですか?」
エリカ姫の顔がぱっと輝いた。
「まあ、嬉しい! 喜んで、お誘いに伺いましょう!」
洋子はエリカ姫を伴い、部屋から出て行く。
王族専用の飛行船には、エリカ姫に相応しい衣装も、たっぷりと用意されていた。それを確認して、今の芝居を思いついたのである。
三村一人になって、市川は廊下で誰も来ないか、見張っていた新庄と山田に合図する。
市川、新庄、山田の三人は、三村の前に姿を表した。
三人の気配に、三村は振り向く。
途端に、三村の態度に変化が表れた。
さっと顔が青ざめ、きょときょとと視線が落ち着きなく、室内を彷徨った。
「三村……王子様の役が似合っているなあ」
市川は皮肉な口調で話しかける。三村はおどおどと俯き、両手を意味なく捻くった。
「そ、そんな……僕は、ただ……」
山田が穏やかな声を掛けた。
「三村君。責めているんじゃない。君の芝居で、おれたちはかなり助かっている。しかし、そろそろ、おれたちの本来の目的を思い出す時分だと思うんだ。君も承知しているように、この『蒸汽帝国』の世界で、我々がエンディングに辿り着かない限り、おれたちは元の世界へ帰れない。判っているんだろうね」
三村は、消え入りたそうに、細長い身体を、精一杯ぎゅうっと縮めている。
「はい……。判っています……」
市川は苛々が募った。
「おい! お前、元の世界へ帰りたくないのか? お前はアニメの制作進行だぞ! 王子様なんて柄じゃない」
市川の言葉に、三村は窓の外を食い入るように見詰めている。唇が細かく震え、何度も唾を飲み込んでいる。
新庄が囁くように話し掛けた。
「何か言いたいのか? 言えよ!」
三村の頬がひくひくと痙攣する。息を大きく吸い込み、身内の決意を高めている。