別人
三村が妙だ……。
市川は圧倒的な気懸かりを感じていた。
何が妙、といって、三村が依然として王子様然としている状態が続いている。物腰は優雅で、口調には気品が溢れ、絶対に喋る前に躊躇ったり、口篭らない。普段の三村を知る市川にとっては、別人としか、思えない。
飛行船は、進軍する王立空軍の部隊との会合地点へと向かっている。引き続き無線連絡で、アラン王子をこの進撃部隊の軍団長に任命する旨、王宮よりの命令が伝えられた。
王立空軍には、ドーデン皇帝よりの玉璽が押された任命書が携えられているはずだ。任命書を受け取った瞬間、アラン王子は──つまり三村は──空軍と陸軍を合わせての軍団を指揮する権限を付与される。もっとも……実際の運営は、将軍たちに任されるのだが。
「どう思う?」
市川は山田と洋子、新庄たちと飛行船の空き部屋に集まり、切り出した。
洋子は頷き、口を開く。
「そうよね。あたしも妙だと思ってた。あれから三村君、名前を呼んでも反応しないのよ。アラン王子、って呼びかけた時だけ、返事するのよね」
新庄は忌々しげに腕を組んだ。三村は制作進行である。つまり、新庄の直接の部下である。その部下が、自分より身分が高い王子様とは、癪に障るのだろう。
「あの野郎、元の世界へ戻ったら、螺子をぎゅうぎゅう締め付けてやる! 制作進行って立場を、完全に忘れてやがる!」
「そうかもな」
ポツリと、山田が同意する。三人は「えっ」と山田に顔を向けた。山田は、何事か一心に考え込んでいる表情であった。
山田は顔を上げた。
「完全に忘れているのかもしれない。もう、自分が制作進行の三村健介じゃなく、ドーデン帝国の第五王子、アランだと思っているのかも」