訂正
絵里香の表情が虚ろになり、言葉が台詞の棒読みのようになる。三村は「導師様?」と聞き返す。絵里香はがくり、と頷いた。
「導師様が仰ったの……。ドーデン帝国は、バートル国を我が物にせんと、アラン王子を使わした……。アラン王子との結婚は、バートル国の衰亡をもたらす……」
山田が相槌を打つ。
「どうやら、バートル国は、導師様とやらが精神的支配を治める、神聖王国のようだな。その導師様が、エリカ姫に奇妙な考えを吹き込んだみたいだ……」
そこまで言って、不意に笑いを浮かべた。
「これは、面白くなった。もしかしたら、その導師様という存在が、ストーリーに重要な役割を果たすようだ。どうだい? エンディングが見えてきたじゃないか?」
山田は市川を見た。
「導師様というキャラクターの設定をする必要があるな、市川君」
急に話題を振られ、市川は戸惑った。
「おれが?」
山田は頷いた。表情に熱意がこもる。
「そうさ、導師様が、もしかしたら、ストーリーの最終的な敵なのかもしれない。ファンタジーの常道さ」
新庄が皮肉そうな表情になった。
「勧善懲悪か?」
と、いきなりドアが外側から激しく叩かれる音が響く。ドアの向こうから騎馬隊長の声が聞こえてくる。
「王子殿下っ! ただ今、ドーデン王宮に無線連絡を取ったところ、元老院と平民議会は満場一致で、バートル国への宣戦布告を決議いたしました!」
バタンっ、と大きな音を立て、ドアが開かれる。騎馬隊長が興奮も顕わに、背筋をピンと伸ばして敬礼をしていた。
「ドーデン王立空軍、陸軍は、現在バートル国に向け、進撃を開始しておりますっ!」
山田が新庄に向かって訂正した。
「いや、戦争アニメの展開だな」