目覚め
気絶したままのエリカ姫を、三村の私室に担ぎこみ、ソファに横たえさせる。市川以下、山田、洋子、新庄、三村は、手足を投げ出した姫の顔をしげしげと覗きこんだ。
ドアの向こうには、アラン王子を護衛する兵士が立っているはずである。三村は王子の威厳で、呼ぶまで、何があっても入ってくるなと厳命していたから、今は市川も普通の口調で三村に話しかけられる。
「どうする、三村。このお姫様……」
言いかけ、市川は口を噤んだ。
何か変だ。余人の入らない、市川たち【タップ】のスタッフのみになれば、三村はいつものように、おどおどとした気弱な表情を浮かべるはずなのだが……。
ところが、三村は真っ直ぐに、市川の目を見つめ返している。視線は、全くぶれていない。顎を高々と上げたままだ。
まるで王子様、そのものである……。
「三村……君?」
市川の呼びかけに、三村は微かに首を傾げた。唇が動き、意外な言葉を押し出す。
「それ、わたしの名前ですか? わたしの名前は、アランです。お忘れですか」
「ええっ!」
市川は驚きのあまり、仰け反っていた。
「三村君っ!」「何を言っているの?」
山田と洋子が、同時に叫んでいた。新庄は、黙って三村を見上げている。
三村は平然としていた。
その時「ふうーっ」と息を吐く気配がして、一同はソファに視線を戻した。
エリカ姫が目を瞬いている。
視線が室内を彷徨い、三村の顔に止まると、ぎくりと身を強張らせた。
「ここはっ?」
「飛行船の中だ」
新庄がするりと前へ出て、話し掛けた。表情は安心させるように、強いて穏やかさを保っている。