騎兵
「なあ、山田さん。バートル国の設定をやるとき、魔法が使える設定にした、って言っていたよな? あいつら、おれの設定した魔法使いたちだぞ。本当に魔法が使えるのか?」
山田は呆然と、市川の見ている先を注目して、頷いていた。
「ああ、確かに魔法が使える設定にしようと、おれは言った。だけど、そりゃ設定だけだぞ。木戸さんが、おれの設定を採用するとは限らない……。第一、ドーデン国の科学技術と、魔法がどう両立するんだ?」
言い合いするうち、バートル国の軍団は急接近してくる。作業を続けている騎馬隊長は、迫ってくる敵兵に、歯を剥き出し、唸った。
「きゃつら! 戦うつもりか? 全員、迎撃の用意──っ!」
作業を続けている兵士を残し、他の騎馬隊の兵士は、飛行船の後甲板に殺到した。
後甲板の扉が開くと、内部にずらりと二輪車が整列している。
騎馬隊とはいえ、通常の装備は、二輪車を馬替わりとしている。本物の馬を、飛行船に乗船させるわけには行かない。馬はひどく敏感な生き物で、飛行船に乗せて運ぶのは、実に困難である。
ばりばりばり! と、けたたましい騒音を撒き散らし、二輪車の群れが飛行船の甲板から飛び出した。
ドーデン帝国では、蒸気機関が主流であるが、二輪車は内燃機関を使っている。というより、市川がそう設定したのである。
サイド・バルブの4ストローク・エンジン。単気筒五百㏄。点火方式は白金プラグの常時点火を採用している。エンジン形式は、十九世紀末にしては進歩しすぎである。が、そこは目を瞑ってご勘弁を願いたい。
二輪車の爆音に、バートル国の騎馬は足並みを乱した。薄青い排気を棚引かせ、二輪車の列は急角度で騎馬隊の前面を横切る。
馬は一斉に驚き、棹立ちになった。騎馬隊長は勝利感に、目を煌かせる。
「抜刀──っ!」
隊長の号令に、全員が剣を抜き放つ。日差しを、刀身がきらきらと眩しく反射した。