追撃
行きはゆっくりだったが、帰りはあっという間だった。悪魔に急き立てられているかのように、新庄は無茶苦茶に鞭を振り回し、遠慮会釈なく、馬の尻を激しく叩く。
白目を剥き出し、口からは泡を噴き出して、馬は全力で走っていく。馬車の内部は、がたごとと前後左右、上下に揺さぶられ、市川は必死になって内部の吊り革に縋りついた。
騎馬隊長が、市川が担ぎ込んだマントの中身に注意を向けた。捲り上げ、驚きの声を上げる。
「なんと! エリカ姫ではないか! 人質にしたのだな?」
騎馬隊長の賛辞の声に、市川は軽く頷いた。本当は人質にするつもりはない。しかし、今は、隊長の勘違いを正すつもりはなかった。
城下町の緩やかな坂道を下り、不意に視界が開け、目の前に草原が広がる。
緑の絨毯に、細長いドーデン帝国の紋章をつけた、巨大な飛行船が横たわっている。風に動かされないよう、船首と船尾から、地面に繋留索が地面に突き刺さっている。
馬車が停止すると、騎馬隊長は部下を叱咤し、大急ぎで繋留索を地面から引き抜く作業に入った。
市川は馬車から地面に飛び降り、バートル国の王宮を見やった。城下町に続く道から、追撃の部隊が迫ってきている。
追撃部隊は、重装騎兵だった。甲冑つきの乗馬に、跨る騎兵もまた分厚い装甲の鎧に全身を固めている。手にしているのは、巨大な槍で、全員が頑丈そうな盾を持っている。
騎兵の後ろから、奇妙な一団が追走してくる。杖を手にし、身に纏っているのは、頭巾つきの、真っ黒なマントである。こちらも乗馬だったが、装甲のない、裸馬である。
あの一団は、自分がキャラクター設定したものだ。もし、設定が、変更されていないのなら、ちょっとヤバイ……!