マント
山田が近づいてくる。山田は手に武器を持っていない。代わりに、調理道具の麺棒を棍棒替わりに振り回している。
「市川君っ! こんな所に釘付けになったら、ヤバいぞ! 外へ逃げろっ!」
山田の言葉に、市川は目が覚めたようになった。そうだ、何も馬鹿正直に戦っている場合じゃない!
騎馬隊長に叫ぶ。
「飛行船へっ!」
ただ一言だけで、隊長は理解したようだった。大きく頷くと、さっと腕を大きく回し、味方に、退却の合図をする。
じりっ、じりっと後退を続け、出口へと近づいていく。三村の周りにはドーデン側の兵士が密集隊形を作って守っている。
ようやく、出口へ辿り着いた。
姫は諦める様子もなく、口をきっと引き結んで、剣を振るっている。
市川の頭上に電球が灯った!
新庄を見る。新庄は近衛兵たちの隊長らしく、足下まで隠れる堂々としたマントを翻している。
市川は新庄に身を寄せた。
「新庄さん、あんたのマントを貸してくれ!」
新庄は、くるっと市川に顔を向ける。市川の顔付きを見て、何か悟ったのか、無言で自分のマントを外すと、投げつけてきた。
市川は新庄のマントを受け止めると、姫に向かって全速力で駆け出した。