報告
しかし、大公は騎馬隊長の台詞に、まともに反応した。
「余に疑いを掛けるだと? お主こそ、正気であろうな? いいや、正気であるはずがない! 正気であれば、そのような世迷言、口にできぬわ! 証拠があるのか?」
ざざっ、と音を立て、ドーデンとバートル両国の兵士が身構えた。皆、剣の柄に手をやり、今にも抜き放とうという勢いだ。
その時、広間の入口から、ドーデン帝国の軍服を着た、一人の若い男が現れ、素早い動きで騎馬隊長に近づき、膝まづくと何事か口早に囁いた。
騎馬隊長は、兵士の言葉に大いに頷く。
「わしは、王宮に招かれる直前、この兵士を斥候として辺りを探らせておりました! 何と、この者の調査によると、バートル国王宮近くに、乗り捨てられた我がほうの軽飛行機を発見した、との報告で御座る! しかも、飛行機からは、王宮に向かって、足跡が一筋、残されておった! 暗殺者は襲撃に失敗し、飛行船の軽飛行機に乗って逃走しております。これこそ、動かぬ証拠!」
大公の唇は、怒りのためか、細かく震えていた。顔色は真っ青である。
が、隣に座っていたエリカ姫は、全然、欠片ほども動じなかった。ゆっくりと顔を挙げ、真っ直ぐに三村を見詰める。
ふっと、姫の口端に笑いが零れた。すっと一挙動で立ち上がると、無言で右腕を背後に回す。
微かに刃の滑る音がして、まるで魔法のように、姫の右手には剣が握られていた。
呆気に取られている全員の目の前で、姫は、たんっ! と床を軽く踏みしめ、跳躍する。
姫の視線は、三村に向けられている。
「アラン王子っ! 覚悟っ!」
姫の叫び声は、広間に凛と響いていた。空中で拝み斬りのように振りかぶる。