時代劇
ターラン大公は、もじもじと居心地悪そうに身動きし、眉を顰めた。
ぴーんと張り詰めた緊張が、その場を支配している。誰も、言葉もなく、三村を──アラン王子──と、エリカ姫を見詰めていた。
「どうか、なさいましたかな? わが国の出迎えに、何か、手違いでも?」
「いや」と、三村が王子らしく、悠揚迫らぬ態度を保ったまま、軽く会釈をする。
唇の端に軽く笑みを浮かべながら、大公を見詰め「お国の歓迎には、深く感謝いたしております。両国の友誼は、ますます深まるでしょう」と、すらすらと答えた。
しかし、三村の横に、べったりと貼り付くように控えていた騎馬隊長は、そうではなかった。
表情に、ありありと不審の念を浮かべ、澄ました顔で端座しているエリカ姫を睨んだ。
「そちらの……エリカ姫と仰いましたな……。我ら、全く同じ顔をした曲者に出会っておるので御座る!」
「曲者ですと?」
大公は、思い切り渋面になった。
穏やかな温顔をした、品の良い物腰をした老人が、困惑の表情を浮かべている。
騎馬隊長は、さらに厳しい顔付きになった。
「さよう……アラン王子殿下は、あろうまいか、貴国に向かう旅の途中、兵士と偽った女暗殺者の襲撃を受けたので御座る! その暗殺者こそ、そこにおわす、エリカ姫!」
いきり立ち、隊長はさっと立ち上がった。指を姫に突きつけ、怒号する。
「咄! 貴様の正体は何だ! きりきりと白状いたせ! 王子殿下を狙った訳は? 背後に糸を引くのは、大公殿か?」
あーあ、本気で時代劇やってらあ、と市川はシラけていた。本人は大真面目なのだろうが、傍から見ると、馬鹿みたいである。