鋼鉄の舌
もう一杯、お替りしようとした刹那、市川の脳天から延髄に掛け、恐ろしいばかりの衝撃が駆け抜けた!
「くわあああああっ!」
市川は、ぴょん、とその場で胡坐の姿勢のまま飛び上がった。
ぼおおおっ! と、市川の口から火炎放射器のように、炎が飛び出す。辛いものを口に含んだときの、アニメの定番表現だ。
辛い! なんてものではない!
何かのエッセイで「辛さに肛門が開く」という表現を目にした記憶があるが、まさに今の衝撃を言い表している。
「かああああっ!」「きいいいいっ!」「けええええっ!」と、全員がカ行の叫び声を上げ、七転八倒していた。
どっと市川の全身に、熱い汗が音を立てて噴き出してくる。額から、顎から、首筋から、滝のように汗を流し、市川は悶えつつ、踊りを踊るように手足をじたばたさせていた。
ちら、と市川は視界の隅で三村を見る。
何と、三村は皆の騒ぎをよそに、悠然と料理を平らげている。ほんの少し、顔色が赤みを帯びているが、まるで平気だ!
あいつの舌は、鋼鉄製か?
市川は必死になって、付け合せの生野菜を口いっぱいに頬張った。それで、少しは口の中の炎を消し止める。
じゅう──っ! と、市川の口から、白い煙が大袈裟に噴出する。他の全員も、同じように蒸汽を大量に噴き上げていた。
ふうっ、と大きく息を吐き出し、市川は顔を上げた。
その時、広間の奥から、煌びやかな色彩の一団が入室してきた。