思い出
動画一枚が、百円ほどで、どんなに手が速いアニメーターでも、一ヶ月に二千枚を越えるのは稀だ。ましてや新人のうちは、千枚に達するのも、難しい。従って、入ってきてもすぐに辞める人間が多いため、国内のアニメ関係者の人数は横這い状態を続けている。
この人数で、毎週の放映を切り抜けるなど、無理な話だ! 従って、国外発注である。
しかし、肝心な絵のニュアンス、演出の細かい部分は、単に絵コンテや、原画を送っただけでは、どうしても齟齬が生じる。そこで、やはり市川のような国内のメイン・スタッフが常駐して、現場のスタッフを監督する必要があるのだ。
市川は数回、韓国に出張した。その際、現地の激辛料理をたっぷり腹に詰め込んだものだった。
最初はまるで慣れなかったが、そのうち舌が辛さに耐性ができると、逆に日本食は物足りなくなってくる。
目の前の料理から発散してくる、強烈な香辛料の香りは、韓国出張を思い出させた。
恐る恐る、市川は碗の中に、鉢のスープをよそった。スープはどろりとして、真っ黒な色をしている。細かな肉の細片が浮かび、あとは豆などが煮込まれていた。
スプーンを使って、口に運ぶ。
市川を、他の全員が「結果や如何に?」と興味津々に見守っていた。
「うん!」と市川は頷く。
もぐもぐと口の中で噛みこみ、飲み込んだ。
「旨い! 辛さは、普通だな……」
ほっと安堵の空気が流れ、一同は我先に料理をよそい、口にする。一気に、広間は和やかな雰囲気になった。