本当の話
どでん! と目の前に置かれた料理の鉢を見詰め、市川たちは顔を見合わせた。
城の広間らしき場所に案内され、一同は床に延べられた絨毯に車座になって座る。随員や護衛の兵も同席できるような、縦横十メートル以上もある、巨大な絨毯だ。床に、直に座るのは、中近東風である。
絨毯の真ん中に、数人の人間によって運ばれたのは、巨大な鉢であった。
中を覗き込むと、何やら得体の知れない煮込み料理が、ぐらぐらと地獄の釜のごとく煮え立っている。
つん、とドぎつい香辛料の匂いが漂っている。
ドットは陽気に叫んでいた。
「さあさあ! どうぞ、お召し上がりになって頂きたい! ほどなく、摂政閣下と、姫君が渡らせられますので……! その間、腹塞ぎの食事でも……」
料理は、各自が渡された碗に勝手によそって食べる形式らしい。鉢の中に煮え立っているスープらしきものと、後は炒めた米、火を通した根菜、付け合せの野菜などである。
どれも香辛料がたっぷり使われている。相当に辛そうだ!
市川は原画マンになってすぐ、韓国に出張した経験がある。日本のアニメの、それもテレビ・アニメは、ほとんど韓国、中国、東南アジアなどに発注している。
理由は、毎週五十本以上も放映されるアニメを、国内のアニメーターだけでは捌ききれないからだ。国内のアニメ関係者の人数は、約三千人で、この数字はこの四十年、ほぼ変わらない。
なぜか。それは、アニメの制作予算が低く押さえられているからである。そのため、新人アニメーターは安い給料で働かざるを得ない。
市川の聞いた話だが、ある古参アニメーターが、市役所に税金の申告に立ち寄ったおり、役人が「この収入で暮らして行けますか? 生活保護を申請なさったらどうです?」と真剣に提案されたそうだ。嘘のような、本当の話である。




