空腹
「ふうん」と市川は納得して、町民に手を振っている三村を見詰めた。
今の三村は、完全に王者としての威厳を漂わせている。アニメの制作進行をしていた三村の面影は、欠片も見当たらなかった。
城下町を通り過ぎると、ぷん、と市川の鼻に香辛料の香りが漂ってくる。
沿道に目をやると、簡単な天幕を張った露天の屋台が立ち並んで、様々な料理を客に出しているのが見える。肉、揚げ物、スープなどが供され、白い湯気があたりに満ちていた。
くんくんと鼻を鳴らし、市川はごくりと唾を飲み込む。
「カレーの匂いだ! たまんねえ!」
「そう言えば、腹が減ったな」
市川の呟きに、山田が深く頷き、同意した。洋子もまた唾を飲み込んでいる。
「もう……思い出させないでよ。あたし、カレーは大好物なんだから。ああ……、元に戻ったら、一目散に食べに行きたい!」
ドットは、にこにこと人の良い笑みを浮かべている。
「皆さん、ご空腹のようですな! ご安心めされよ! 城に着けば、皆さん方の昼食を用意しておりますゆえ……」
「本当かい?」
市川は身を乗り出した。馬車の窓から首を突き出し、近づく城門を見上げる。
高い胸壁に、天を指す尖塔。どっしりとした巨大な石組みによって、城は建てられている。
城の中央には巨大なドームが被さり、外壁には色タイルによって、精緻な幾何学模様が描かれている。実に古風な、王宮らしい建物である。
市川は一刻も城に入りたいと、熱望していた。